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電子書籍の過去・現在・未来

 電子書籍という言葉を聞いたのは、もうずいぶん前になる。当初はパソコン上で専用のソフトを使って読むものだった。ボイジャー社のエキスパンド・ブックは、ソフトの出来もけっこう良くて、私もいろいろと作って遊んでみたものだった。折からの「マルチメディア」ブームもあり、このまま一気に普及するかな、とも思ったのだが、甘かったようだ。だいたい、当時のマルチメディア・ブームというものは、「CD-ROMブーム」と言い換えてもいいくらいだった。さまざまなタイトルがCD-ROMで発売され、また消えていったのがこの時代だった。
 
 その後、しばらく電子書籍という言葉とも縁遠くなっていたのだが、数年前から複数の出版社が団体を作り、電子書籍の普及に力を入れるようになってきた。紙の書籍と比べ、流通コストが格段に低く、かつ在庫経費の掛からない電子書籍というのは、出版社にとって都合のいいものなのだろう。こうして、コンテンツを供給する側の体制は整ってきた。
 いっぽう、コンテンツを閲覧するハードウェアの方も進歩してきた。以前はパソコン上でしか閲覧できなかったものが、高解像度のディスプレイを持ち、動作時間も長いPDAが次々とデビューしたことで、手軽に電子書籍を読むということが現実味を帯びてきたわけだ。
 さらにいえば、ユーザー側の意識も変わってきた。以前は紙の本以外読む気がしない、と言う人が大半だったのに、最近では携帯電話で読む小説が人気だとか。大人が、「電子書籍を普及させるためには、使いやすくい専用端末の開発が急務」だとか「いやいや、専用端末は安くないと普及しない。より一層の周知をはかり、大量生産で価格を下げる努力を」だとか、頭の固いことを言っているあいだに、若者はどんどん自分の生活スタイルに取り入れているのだ。

 とはいえ、コンテンツを供給する側にたつ私としては、この電子書籍にはどうしても賛同できない部分があるのだ。まずは、セキュリティの面。たしかに、どの出版社もデータをコピーされないよう、あるていどのコピーガードを掛けているようだ。でも、ゲームソフトやビジネスソフトの違法コピーの現状をみると、やっぱり不安になる。紙の本だってコピーは出来るけれど、電子書籍はまったく劣化せずに大量のコピーを作成できる。このことは、著者にとっては大きな問題だ。
 また、各出版社間で統一規格が出来ていないのも不安材料。ある出版社は、pdfでガチガチのプロテクトを掛けているかと思えば、ある出版社はテキストデータをそのまま流している。テキストデータそのものを流す、なんてどういう感覚をしているのだ、と聞いてみたくなる。
 最後の問題は、印税の問題。電子書籍はさきにも書いたように、流通コストも低いし在庫経費もゼロに等しい。さらにいえば、現在、電子書籍に参入している会社のコンテンツはほとんどが既刊本のDTPデータを流用したもの。ということは、制作費もごくわずか。それにしては、著者に入る印税率が低すぎなんじゃあありませんかね。紙の本の印税率が10%なんだから、電子書籍は50%くらいでもいいはずだ。

 もっとも、うちでマネージメントしている作家の言い分は別にあるようだ。田中芳樹氏は、電子書籍に自作を最後まで提供しない作家だと思われるが、田中氏の理由は非常に明快。自分は紙の本を想定して小説を書いているから。とのことだ。
 小説家が小説を書く場合、掲載メディアを意識するのは当然のこと。ハードカバーにはハードカバーの、文庫書き下ろしならば、文庫書き下ろしの文体がある。電子書籍に対しても同様だということだ。ハードカバーが文庫になる、ここまでは容認できても、そこから先の部分は感覚的に難しいのかもしれない。
 いっぽう、架空戦記などで活躍する横山信義氏の場合は、まったく逆。コンテンツさえ面白いと思ってくれれば、少々の違和感はあっても読者は付いてきてくれる。また、読者の需要がある以上、それに応えるのが作家である。という考え。これも一理あるだろう。
 もともと、田中氏は原稿の執筆にコンピュータを介在させておらず、いまだに原稿用紙に手書きで執筆している。横山氏はデビュー前からワープロソフトで原稿を書いている。このような違いも意識の差となって現れているのかも知れない。

 私がこうして書いているあいだにも、電子書籍を取り巻く環境は急速に変化している。今後の動向には注意をしておく必要が(私のような商売には、とくに)あると思われる。

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