ワシントンD.C.二日目。
時差ぼけにはなりにくい私なのだが、エコノミーの座席ではあまり眠れなかった。それが響いていたのか、少々時差ぼけが残ってしまったようで、午前5時くらいに目が覚めた。のどの渇きを覚えたので、隣のベッドで寝ている甥っ子を起こさないように、気をつけて床に足をつけたら、すでにおきていた甥っ子に声をかけられた。どうやらかなり前から起きていたらしい。
時差ぼけになりやすい体質と、そうでない体質があるんだなあ。
仕方ないので、私はネットにつながったパソコンをいじり倒したり、持ってきた文庫本を読んだりして時間をつぶす。
6時を回ったあたりで、少々音を出してもかまわないだろうと判断してシャワーを浴びる。例によってお湯の温度が安定しないシャワーで、ストレスがたまる。
ゆっくり身支度を済ませ、ホテルのレストランに朝食を食べに行く。すでに一番込んでいた時間は過ぎていたようで、客の姿もまばら。おかげでのんびりと食事をすることができた。
食事のあと一度部屋に戻り、準備を整えて外に出る。今回のホテルは、地下鉄の駅から徒歩1分なので非常に便利。地下鉄の入り口にあるエスカレーターに乗ろうとして、思わず声を上げてしまう。べらぼうに地下深くに作られた駅。まるで地の底のような駅にむけて、一直線に伸びているエスカレーターは、なんとなく非現実的な光景に見えた。
チャイナタウンまで地下鉄に乗り、国際スパイ博物館へ。入場料、大人14ドル。
中に入ると、まずエレベータで階上まで連れて行かれる。(ちなみに、エレベータのなかでは「このエレベータ内は保安処置をされていないので、機密事項を話してはいけない」とのアナウンスが流れた)
そして、スパイについてまとめた5分程度のムービーを見ることを「強制」される。なにせ、これを見ない限りは展示場に行けないのだ。
とはいえ、ムービー自体のできはよく、ナレーションの英語もわりとゆっくりめだったので、なんとか私にも内容がつかめた。横の甥っ子をみた限りでは、ぽかんとしていた感じだったが。
展示品は、摘発されたスパイが実際に所持していたスパイ道具の数々、いわゆるスパイカメラや小型の発信器、通信装置、武器などなどが整理されて並んでいる。私には大変興味深かったのだが、どうも甥っ子の反応が鈍い。ひょっとして、博物館の選定をミスしたかと心配になるが、ま、ここは私の趣味だし。と開き直ることにする。
ただ、甥っ子と展示品を話しながら進んでいて、彼の物知らずに愕然とする。ベルリンの壁がどういうものであったか、冷戦構造というものがどのようなものであったか、などがまるで頭にないらしい。展示品の説明文に「axis」という単語があったので、枢軸国について話をしてみれば、三国同盟も知らない感じ。ウィンストン・チャーチルの写真を示して、これは誰かと聞いてみても「知らない」、チャーチルだと教えてみても「その人は知らない」と。
確かにできのよい甥っ子ではないと思っていたが、自分の中学二年生時代を振り返ってみると、ここまで物知らずではなかった自信はある。観察していると、彼が読んでいる本は漫画ばかり。これが悪いとはいわないが、彼の「圧倒的までの知識不足」を目の当たりにして、やっぱりこれはまずいのではないのかなぁ、と心配してしまう。
スパイ博物館を出たところでお昼。昼食をどうするか、と考えたが、朝食が遅かったこともあって腹が減っていないので、このままスミソニアンの自然史博物館まで歩くことにする。
ワシントンD.C.は寒い、と聞いていたのだが、全然。せっかく買った新しいダウンジャケットも、小脇に抱えたままである。みれば、タンクトップ姿でジョギングをする女性もいる。うむむ。
ジョギングといえば、アメリカの国会議員が大統領選に出馬を考えると、一番最初に始めるのが毎朝のジョギングなんだそうだ。次に、いままで行ったことすらなかった教会に、日曜日ごと奥さんを連れて通いだすらしい。最後が、公認会計士と首っ引きで、自分がいままで納めた税金に納付漏れがないかどうかを、それこそ高校生時代のアルバイト代から詳しく調べ、万一納付漏れが見つかった場合には、きちんと納付をするとのことだ。じゃあ、ここで走っている男女のうちにも議員がいるのだろうか、と思ったのだが、よく判らなかった(笑)。
スミソニアンの自然史博物館に着き、まずは一番上の階へ。さまざまな展示を見て、最後にホープ・ダイヤモンドを見る。やはり世界最大のダイヤは輝きが違う。以前に来たときは、時間も限られていてゆっくりとは見られなかったので、今回は説明文の一つ一つを丹念に見ていく。
残念ながら、ここでも甥っ子の知識不足が露呈し、ついつい苛立つ自分に、また苛立つ。ただ、少しだけ判ってきたのは、彼の場合、関心のないことには、いっさい知的好奇心が働かないらしい。恐竜がいつ滅んだとしても、それが何か自分に関係ある?という感じ。私の場合、頭のなかの87.5パーセントは知らなくていてもいい知識が詰まっているので、さまざまな分野に首を突っ込んでいるのだけど。興味のない分野と言っても、世の中のすべてのことは意外なところでリンクしているので、通り一遍の知識だとしても持っていたほうが何かと役に立つんだけどな。さらにいえば、高い頂上をもつ山は、それだけ裾野も広いんだけどね。
とはいえ、どうやら甥っ子が時差ぼけにより、急速に体力を奪われているようす。口を開くと「眠い」という。このままでは私のほうもイラついてきそうになるので、ちょっと早いがホテルに帰って休息をとることにする。正直いうと、私もちょっと疲れてきたし。
午後3時前にホテルに戻り、甥っ子はすぐに寝息を立て始める。おーい、こんな時間に眠ったら、また夜に眠れなくなるぞぉ。
ま、そう言っても仕方ないか。私も海外に行き始めたころは、時差ぼけのうまい解消法が見つからず、苦しんだ覚えがあるし。
すやすやと眠る甥っ子を見つつ改めて思うのだけど、中学生の学力レベルが落ちているという報道などを聞いていたのだが、これは事実であった。少なくとも、彼のような子供は珍しくないと思う。学校の勉強さえちゃんとやっていれば、その後の社会生活を送る上で問題ない知識と学力が身につく、なんて言っていられたのは過去の話だというし、もうちょっと自分の意思で物事を知る努力をしてほしいなあ、と切に願う。頭が柔らかいうちでなければ、身につかないものも多いし。
もっと怖いのは、彼が自分の知識不足を恥ずかしいと思っていないように見受けられること。そんなの知らなかったって……という思いが表情から伺えるのだ。それじゃあ、つまらないだろうよぉ。と、思う私は古い人間なんだろうかねえ。
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